映画『狩人と犬 最後の旅』
映画『狩人と犬 最後の旅』
(2004年 フランス、カナダ、ドイツ、スイス、イタリア)を観ました。
「自然は寛大で、人が賢くなりさえすれば、たくさんの恵みを与えてくれる。」
この映画は、映画監督であり冒険家でもあるニコラスが北極圏ロッキー山脈で生きる狩人ノーマンと出会うことにより生まれた作品です。
話はノーマンの実体験の再現で、スタジオやセットは一切なく、すべて実在の物・実在(本人)の人です。
唯一、出演拒否したノーマンの妻役・メイも自然を愛す理解者で撮影するバーに遊びに来ていた女性です。
短い夏、長い冬、夜毎のオーロラ、白夜、映像の8割りを占める野生動物…最高零下55度で撮影された美しい光景…
極寒で長く撮影した映像は世界初だそうです。
映像を観るだけでも学ぶものが多くあります。
氷った湖下の水は0度以下にならないから零下40度の外気より暖かいとか、
湿度が低いから零下40度でも丸太小屋やテントで火を炊けば裸で平気なほど暖かいとか、
蚊が多い夏より犬も人も冬を好むとか…
狼は人間を襲わないとか、
熊が人を襲う事故の99%は人の過失にあるとか…
真の闇と真の無音の世界とか…
ノーマンは夏は馬とカヌー、冬は犬ぞりで動物も緑も密度が少ない北極圏で、約500〜1500キロ平米(およそ縦80キロ、横20キロで渓谷1つ分 )の範囲を1人で仕事します。
近年、厳しさに合わない低収入を理由に狩人は減っています。
ですが、数少なくなった狩人の狩場がないほど、人による森林伐採で、どんどん森が消えているそうです。
人間は進化をした知能で地球の支配者になれるか?
人間は神が間違えて作った諸悪の根源か?
人間の存在が地球・動植物を滅ばせるのか?
ノーマンの答えは、すべてに「NO」です。
確かに、今の環境破壊は上の問いにYESと言えます。
ノーマンは他にやり方があるのを示したくて映画を受けたのです。
1人で何ができる?
ノーマンは1人で広大な森を手入れしています。
ノーマン達、狩人は動物と同じように森に暮らし、生活に必要な分だけをとり、現代社会を疎んで世捨て人のように自給自足しているわけではありません。
陽気で人好きなノーマンは半年ごとに町に行き、人気者の彼を待ち受けている町中の人と3日ほど夜を徹して遊びます。
そこでは森で手に入らない茶葉やタバコ、窓ガラスなど必要な物と多量の本(近年は主に環境破壊問題)を買います。
ノーマンは小屋を立てる木を切るときも、薪にする枝を切るときも、必ず森林のためになる手入れを兼ねてします。
動物を狩るときは、毛皮でも食肉でも、各種の数をよく観察して必要な種類を必要なだけ狩るのです。
例えばウサギが少ない年はウサギを捕らず、ウサギを捕食する動物を狩ったり、ウサギを捕食させないようにして固体数を調整します。
狩人が自然に上手に干渉する地は狩人のいない森より遥かに豊かで美しいのです。
ノーマンは自分のことを
「知能のある捕食動物」
と言います。
動物が無駄なく必要なだけ食べていても、天候や病気などから生態系は度々バランスを崩します。
人間だけが知恵により、それらの管理をして、自らも自然の恩恵を受けることができるのです。
ノーマンはそのことを「管理」とは言わず、「自然の恩恵を受けたお返し」と表します。
ニコラス監督は「株式配当(利益の分配)のようだ」と言っています。
神様は、きっとそのために人間を作った…?と思える映画です。
ニコラス監督は言います。
「ノーマンが100万年生きるとしたら、この森も100万年生きる」
けれど、人間による環境破壊で動物がいなくなる日は目前です。
「そしたら俺も町で仕事をみつけなければ…」
と、ノーマンは真剣に考えます。
1人で1渓谷を豊かにできても1人で大企業の森林伐採を止められない…。
なんだか暗くなってしまうので可愛い「そり犬」達について書きましょう。
ノーマンとニコラスはシベリアンハスキーのような「そり犬」を都会で飼う間違いはしないでほしいと言います。
ペット反対!ではなく、走るのが何より好きな「そり犬」は都会に合わないのです。
映画を観る前に私がしていた誤解が「そり」なんて引かせて可哀想!でした。
実際に映画を観ると、そりを引いて走る犬達は最高の笑顔なのです。
犬は大好きなご主人様と走る楽しみを共有するのも無類の喜び、好むところです。
ノーマンは鞭を使いません。
愛情で結ばれた賢い犬は20以上の単語を理解し、鞭をふるうより細やかな司令を出せるからです。
犬ぞりは日に100キロ近くも、2週間ほどで2000キロを移動することもあるほどです。
「そり犬」の仔犬が可愛くて都会で飼うブームがおき、数年後には飼い主が持て余した犬達が動物愛護協会に…
この映画に出てくる最も賢い犬は動物愛護協会から引き取った犬です(映画を観る人へ警告もこめて)。
他にも監督の愛犬を含め7匹の可愛らしい犬が出てきます。
映画の中で、リーダー犬「ウォーク」と新入りのメス「アパッシュ」が恋をします。
雪の中で寄り添って寝る2匹を最初は再現演技と思っていました。
でも、そりを引き走りながら先頭のウォークにアパッシュが何度もキスをするシーンがあるのです。
恋愛はハプニングで、真実の熱愛現場はスゴくスゴく微笑ましいです。
この映画は4度、観ることをオススメします。
1度目は本編。
2度目は監督の解説「大人向け」
3度目は監督の解説「子供向け」
4度目は再び映画を堪能します。
ノーマンは防寒のために髭をのばし、春になると動物の毛変わりのように髭をそります。
「半年後、俺が町に来なかったら妻と犬達を探しに行ってくれ。
俺はいい。俺も動物だから。」
動物は自然の恩恵を受けて捕食し、生き、最後は他の命の糧となり、命をつないで恩返しして還っていきます。
町にでて食事をしたとき、監督にノーマンが言ったそうです。
「見てごらん。食後の皿に肉や魚が残ってる。
狩人や原住民は絶対にしない。」
ノーマンにとって食事とは他の命を貰う行為なのです。
ノーマンの美しく精悍な容姿は素の動植物が美しいように、なんとも不思議な感を受けます。
非常に美しい映画です。
監督は、撮影スタッフにも感激しています。
「彼らが自然に魅了され、楽しみ遊ぶ冒険心が生まれ無ければ過酷な仕事に耐えられなかった。」
ぜひ、ぜひ、すべての人に観ていただきたい映画です。