いつか行く場所

ノア

2009年03月05日 23:57

天井に目をやったまま、彼は言った。


「もう、あの世に行きたい。」



彼は末期の胃ガンだった。


本人は薄々、気付いていたが、周りは胃潰瘍で通していた。


それから1週間後の早朝。


彼の息子と見舞いに行った私は、息子が医者と話をするために部屋を出たので彼と2人きりになった。


突然、彼はスッと起き上がり

「ああ、身体がラクだ、どこも痛くない。」


と言った…


ところで、

家で寝ていた私は、彼の最期を告げる電話の音で夢から覚めた。



あれから、10数年。

何か身体や精神が苦しい度に


「もう、あの世に行きたい。」


と言う声が、頭にボンヤリひびく。



彼は…


亡くなる直前も同じように思っていただろうか?


いや、


きっと…。




もう、彼岸桜が咲き出した。


命日が近い。