いつか行く場所
天井に目をやったまま、彼は言った。
「もう、あの世に行きたい。」
彼は末期の胃ガンだった。
本人は薄々、気付いていたが、周りは胃潰瘍で通していた。
それから1週間後の早朝。
彼の息子と見舞いに行った私は、息子が医者と話をするために部屋を出たので彼と2人きりになった。
突然、彼はスッと起き上がり
「ああ、身体がラクだ、どこも痛くない。」
と言った…
ところで、
家で寝ていた私は、彼の最期を告げる電話の音で夢から覚めた。
あれから、10数年。
何か身体や精神が苦しい度に
「もう、あの世に行きたい。」
と言う声が、頭にボンヤリひびく。
彼は…
亡くなる直前も同じように思っていただろうか?
いや、
きっと…。
もう、彼岸桜が咲き出した。
命日が近い。